北海道大学薬学部 大学院薬学研究院
臨床薬剤学研究室

 

RESEARCH/ 研究内容

 

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 生物界に存在する様々な生理活性物質や化学合成により創製された薬理活性物質はそれ自体では単なる「化合物」にすぎません。これが剤形を用意され、治療目的で使われて初めて「医薬品」として世の中で認識されます。
 最近では、従来に比して非常に僅かな量で強力な生物活性を持つものが医療現場で使用されるようになってきました。『医薬品の科学的な根拠に裏付けされた適正な使用』という観点から、”如何にして良く効く薬を創るか” だけでなく、”どのようにして安全に使用するか”という患者本位の医療がますます重要になってきています。
 わたしたちの研究室では、『医療は本来患者の利益のためにある』ことを再確認し、医薬品のエンドユーザーである患者さんが等しく高品質の医療を享受できるための医薬・医療情報を提供することを最終目標として研究を続けています。

研究内容詳細(クリックで開きます)


 体の中での薬物の動きは、各組織・器官を形成する細胞の膜透過性と形成する臓器の大きさ(総細胞表面積)に依っています。薬物の中には、細胞膜に存在するtransporterと呼ばれる輸送システムによってその動きが制御されるものがあります。私たちの研究室では、この膜輸送システムが関与する例として消化管吸収や胎盤透過(母体から胎児への薬の動き)を取り上げ、薬物治療で影響が出てくるようなトランスポータと薬物の相互作用について解析を行っています。

 


 
 病態時、特に病状が急激に変化する急性期においては、生体ではさまざまな変動が起こっています。急性期・臓器移植時の虚血再灌流が及ぼす機能障害の発生機序および回復機構、心筋梗塞その他の急性期や移植の際には、臓器の拒絶反応に加え、術後早期の虚血・再灌流による臓器機能の低下が一つの問題点としてあげられます。小腸の血流が止まる疾患においては、小腸がダメージを受けやすいのは血流を回復させたとき (再灌流時)だと言われています。この時に起こる組織の損傷によって吸収を担う臓器である小腸にどのような機能変化が生じ、 物質の吸収にどのような影響があるかについて、トランスポータ機能と物質の受動拡散の両面から調べています。また、妊娠時の体内動態は通常時とは異なり、胎盤、臍帯、羊水、さらには胎児を含む6コンパートメントとして評価されます。しかし、胎盤通過性や胎盤での薬物代謝、胎児の腎機能など妊娠期間中に変化する要因も多く、その評価を複雑にしています。さらに、胎盤はその形成、分化において生体のホルモンによる影響を受けることから、妊娠時に分泌量が変動するホルモンと胎盤に存在するトランスポータの機能変動との関連性について検討しています。その成果は、妊婦時期に応じた最適な薬物療法を目指したエビデンスの構築を可能とし、新しい生命の健やかな誕生に多大な貢献をすることが期待されます。


 薬物療法を科学的に考察し最適化するためには、臨床研究と実験室で行う基礎的な動態学研究のブリッジングが必要となります。このセクションで扱う研究内容は最終的には医療現場で役に立つ研究成果を挙げることを目標に行っているものです。「経験的」な薬物療法から「科学的根拠」に基づく薬物療法へシフトすると言っても、現在の経験的医療を全て否定するものではありません。むしろ、現在の医療に対しscientificな評価を行い、よりしっかりとした治療法・医療技術・薬物療法の標準化をおこなって初めて次世代の医療、すなわちEvidenced Based Pharmacotherapyやゲノム創薬・テイラーメード医療に結びつくと考えています。私達の目指すところは、企業への新薬開発貢献と言うよりは一般市民一人一人へ「より先進的で標準化された医療・薬物療法に関する情報を正しく提供する」ことであると言えます。